新型コロナウイルス感染症の「第5波」がピークを迎えていた2021年8月20日の昼過ぎ。JCHO東京城東病院(東京都江東区)に、地域医療機能推進機構(JCHO)の尾身茂理事長(当時)から電話が入った。
外来診察中で電話に出られなかった中馬敦院長(61)は、診察を終えた後、尾身さんに折り返した。
「JCHOの東京都内の病院をコロナ専用病院にして欲しいと政府から打診を受けた。城東でやってくれないか」
当時は重症化率の高い新型コロナのデルタ株が猛威を振るい、患者が入院するベッドが不足していた。
城東病院はJCHOが運営する都内に五つある病院の一つ。強みの整形外科での手術は年600件以上。他にも消化器分野など地域密着型の医療を提供してきた。
病床数は5病院で最少の117床と小規模。院内をウイルス汚染区域と清潔な区域で分ける「ゾーニング」が難しく、クラスター(感染者集団)が発生するリスクがあり、積極的にコロナ患者を受け入れていなかった。
その代わり、コロナ患者を受け入れる他のJCHOの病院に看護師を派遣していた。
感染症専門医はおらず、当時は約90人が入院していた。「地域の人が入院できなくなるのは困る」。中馬さんは悩んだ。
病院幹部である事務部長、看護部長と各診療科部長を集め、説明した。
「一般診療はどうなるんですか」。不安の声が出た。JCHO本部に確認すると、入院できるのはコロナ患者だけになるという。1カ月以内に90人いる入院患者を転院か、帰宅させ、診療は最低限の外来に制限。手術も日帰りの外来手術しかできなくなる。
「専用病院になります」 医師は4人辞めた
議論は4時間近くに及んだ。その日の夜、中馬さんは尾身さんに電話した。
「受けますが、条件を出させてください」
翌日、中馬さんは、JCHO…